前回の金髪イケメン君に出会ったバイト以来の派遣バイトに行ってきた。
今日は、とある倉庫での軽作業。この倉庫には、これまでに何度も行ったことがあって、もうだいぶ作業には慣れている。
今日は、前回の金髪イケメン君のようなおもしろい人物に出会うことはなかった。
だが、ある事件が起きた。
それは昼休憩のあとに起こった。
1時間、昼休憩をとったあと、3階の作業場へ戻るためにエレベーターを待っていたときだ。
ここの倉庫にはエレベーターが2つある。3階で作業をしている人は右側のエレベーター、4階で作業をしている人は左側のエレベーターに乗る、といった具合に作業をしている階によって乗るエレベーターが区別されている。
僕は3階で作業をしていたので、右側のエレベーターに乗った。
そのとき、僕とほぼ同時にエレベーターに乗り込もうとした女性がいた。
その女性は、おそらく年齢は40代。休憩のとき、僕の近くに座っていた。
その女性は、今日初めてこの倉庫に来たようだった。
休憩のときの様子から、なんとなく感じてはいたが、その女性はとても不安がっていた。もともとそういう性格なのだろうか。常に周りにおびえているような感じで、とても気が小さいようだった。
僕も豆腐メンタルの持ち主なので、その女性に勝手に同情していた。
うんうん、初めては不安でこわいですよね、と。
その女性が僕とほぼ同じタイミングで、僕と同じエレベーターに乗り込もうとした。
しかし、その女性の作業場は3階ではなかった。4階がその女性の作業場だった。
女性が間違ったエレベーターに乗ろうとしているのを近くでベテランのおじさんが見ていた。
おじさんはすかさず、「おい、ちがうよちがう」と女性に間違いを指摘した。
女性は「へっ?あっ、ちがう!すいません・・・!」と一瞬パニクったような声をあげ、謝りながらエレベーターから飛びのいた。
おじさんの指摘の仕方はそこまで強いものではなかった。かといって、別段やさしくもなかったのだけど。ただ間違っているのを発見したから、「ちがうよ」と指摘しただけ、といった感じだった。
それに対し、その女性は一瞬だけ甲高い声を上げ、そのあとに消え入るような声で「すいません・・・」と謝罪した。
まあ普通に考えれば、なんてことないできごとだ。
女性が乗るエレベーターを間違えていて、それをおじさんが指摘してあげた、というだけのこと。
だが、その女性はこのなんでもないできごとにひどく動揺してしまったようだった。おじさんに間違いを指摘されエレベーターから離れたあと、女性はうつむき、恥ずかしそうにしていた。
女性はなんともいたたまれない感情になっていたのだろう。あの動揺する姿に、僕はとても共感し、同時に同情していた。僕も作業中に社員さんにミスを指摘されると、内心、「やべやべ、まちがえたまちがえた、どうしようどうしよう・・・」とひどく動揺し、いやな汗をかくからだ。
動揺する女性をエレベーター内から僕は見ていた。(3階で作業をしている人が全員乗り込むまでエレベーターは動かない)
女性の近くには、ふたりのパートのおばさんがいた。このふたりもこのできごとの一部始終を見ていた。そして、ふたりの表情を見ると、ふたりとも必死で笑いをこらえていた。
爆笑寸前という感じではないが、ふたりで顔を見合わせ、くすくす笑いをこらえている感じだった。口元は完全ににやけていた。たいしたことでもないのに、ひどく動揺し、周囲の視線におびえる女性が滑稽に見えたのだろうか。
僕はそのおばさんたちのあの嘲笑が大嫌いだった。怒りと嫌悪が入り混じったような感情になった。
あの、人を見下したような嫌な笑みが僕にはたまらなく不快だった。
気の小さい人はいじめの対象になりやすい。人は気の小さい人を自分より弱い人間だと認識し、見下す。僕はそれが許せない。
僕はそのままエレベーターが3階へと動き出すまで、ただただその光景を眺めていた。
内心は怒りと嫌悪感でいっぱいだった。そして、同時に残念な気持ちになった。
気の小さい人を見下す人がいるから「いじめ」が起きるのだ。あのおばさんたちみたいな人がいるから、いつまでたっても日本から「いじめ」がなくならないのだ。
前回のバイトとは打って変わって、人間の残念な一面を見た一日だった。