物思いに耽る。
そういう時間が好きだ。
取り止めもなく、なにかを思う。あのときのこと。あの子のこと。これからのこと。
小学生から高校生にかけて、一年に一度、家族旅行に行っていた。親が車を運転し、静岡まで旅行に行くのがお決まりだった。だいたい夏休みに2泊三日して帰ってくる。その帰り道の時間が好きだった。
いわゆるお盆の帰省ラッシュの只中。お昼過ぎにホテルを出発しても、すぐに渋滞に巻き込まれてなかなか進まない。数時間経って、やっとやっと渋滞を抜け出してすいすい進むようになったころにはあたりはもう真っ暗。
真っ暗な高速道路。あそこを走っているときが好きだった。
窓の外を走り抜けていく何本もの街頭にぼんやりと目をやりながら、たまに前方を見たりすると、いくつものテールランプが連なっていて綺麗だった。
弟たちはすっかり眠ってしまっている。僕以外に起きているのは、何時間も運転しっぱなしで疲れているだろう母だけだ。
会話をすることもなく、お互い自分の世界に入り込んでいた。
ゴーっという車が駆け抜ける音だけが響く中、ただ自分の世界に入って物思いに耽っていた。なにを考えていたのかは覚えていないし、たいして意味のあることは考えていなかったと思うけど、でもあの時間が心地よかったことは覚えている。
いま普段の生活のなかで、そうやって自分の世界に入り込んで耽る時間はそうない。
ついスマホを手に取って、必要なんだか不要なんだかわからない情報を無限にインプットしてしまって、自分の世界に入ることなんてしない。
やっぱり物思いに耽るには乗り物に乗って移動しているときが一番適している。
そのために移動する時間を作りたいとさえ思う。できれば夜がいい。夜行バス、夜の飛行機、タクシー。もしくは免許を取って自分で運転するのもいいかもしれない。慣れないうちは自分の命を守るのに必死で物思いに耽っている場合ではなさそうだけど。
いったいぼくはそうまでして、なにを考えたいんだろう。いつもなにを考えていたんだろう。
そう思って、いくつかの場面を思い起こしてみる。自分が夜の空を見つめながら耽っていた時間を。
片思いだ。
その時のぼくは片思いをしていた。