精神科医・香山リカさんの『私はのんびり生きてきた。最適化社会が不幸を生む』を読んだ。
香山リカさんは、現代人の心の問題を中心にさまざまな著書を出している。僕の個人的な印象としては、香山さんの著書は心の内面に悩みを抱えている人、つまり「生きづらさ」を抱えている人に向けた著書が多い。
この本も同じく、このどこか生きづらいニッポン社会を分析し、その上で香山さんなりにどうしたら肩の力を抜いて生きていけるか、その方法を記したものとなっている。
簡単にこの本を紹介する。
この本で香山さんが言いたいのは、「日本人よ、もっとのんびり生きようじゃないか」ということだと思う。
香山さんはこの本で、現代のニッポン社会を「最適化社会」と呼ぶ。最適化社会とは、とにかくムダを省き、なんでも効率よくものごとを進めようとする社会のこと。
一見、最適化社会は良い社会のようにも聞こえる。仕事にしても、勉強にしてもムダを省き、効率よく進めることは賢いやり方のようにも思える。
しかし、あまりに効率重視をして、「とにかく早く、とにかく得を」と追い求めすぎると、どこかで無理が生じてくるのではないかと香山さんは言う。
ムダを省き、合理化、削減化を極限まで進めていけば、人間の心には必ず無理が生じるものなのだ。
日本が最適化社会へと変化してから、企業ではうつ病が激増したという。とにかく生産性をアップし、業績を回復するんだ!と意気込み、働く人たちは仕事に埋没していった。その結果、心も体もすり減らし、ついには精神に異常をきたしてしまったというわけだ。
最適化社会の現状を語ったあと、この本ではその最適化社会のなかであえて「最適化を避ける生き方術」を紹介している。「計画にしばられない」「他人にしばられない」などなど、全部で30ものしばられない生き方術が書かれている。気になる方はぜひ実際に手にとってみてほしい。
ここからは僕の感想を書いていく。
たしかに今の日本はとにかくムダを省こうとする人が多い気がする。
「人生一度しかないんだから楽しまなきゃ」とか「そんなことしてたら時間がもったいないよ」なんて言葉をよく耳にする。そのたびに僕は、嫌なプレッシャーを感じる。
仕事や勉強だけでなく、人生という有限な時間でさえも、ムダを省き、効率よく楽しもうという風潮があるように思うのは僕だけだろうか。
たしかに、時間に限りある人生なのだからなるべく楽しんだほうが得だろう。だけど、僕はそうして得ばかり追い求める人生は疲れる気がする。
「時間をムダにしちゃ損だ!」「人生楽しんだもの勝ちでしょ!」「楽しまなきゃ損損!」なんて言葉を聞くと、なんだか人生忙しそうだなあという印象を受ける。
僕は体力がなくてすぐ疲れるタイプだからというのもあって、のんびりしている方が好きだ。もちろん、たまにはパーっと遊びに行くのも楽しい。アクティブに行動するのもいいな、と思うときだってある。
だけど、つねに動き回っている生活はきっと僕には耐えられない。どこかで適度に休息を取らないと僕はダウンしてしまう。これはきっと単に体力がないだけでなく、心の余裕とも関連しているのだと思う。
生き方や時間の使い方は人それぞれだ。
ムダな時間を大いに楽しみ、のんびり生きていたっていいじゃないか。